【勝訴確定】フェミ科研費裁判終結にあたって(声明)

杉田水脈議員の名誉毀損を認め損害賠償の支払いを命じた大阪高裁控訴審勝訴判決が確定しました。下記に裁判終結にあたっての原告からの声明を掲載します。


2023.6.15

フェミ科研費裁判終結にあたって

原告 牟田和恵・岡野八代・伊田久美子・古久保さくら

 「国会議員の科研費介入とフェミニズムバッシングを許さない裁判(略称:フェミ科研費裁判)の高裁判決後、6月13日で最高裁への上告期限を迎えましたが、私たちは上告は行わないこととしました。被控訴人の杉田水脈国会議員側からも上告は無い模様ですので、本判決は確定することとなります。毎回傍聴席を満員に埋めていただいた皆様はじめこれまでご支持ご支援いただいた皆様にあらためて感謝申し上げるとともに、5月30日の大阪高裁控訴審判決はじめ本裁判の一連の経過につきましてご報告を申し上げる次第です。

*杉田議員の発言の不法性を認めた画期的勝訴 

 杉田議員は、2019年初めから、原告らの科研費研究について、牟田や岡野の実名を挙げながらSNSやインターネットTV,書籍雑誌等で、事実に反する誹謗中傷と侮辱を繰り返しました。高裁判決は、それらのうち、科研費使用に問題がある、ずさんな経理をしている、等の発言を、牟田への名誉毀損にあたる不法行為と認め、慰謝料として33万円の賠償を杉田議員に命じました。京都地裁の不当な判決を覆す画期的な判断でした。現今の政治状況で、最近まで閣内に居た人間を「負けさせる」のは裁判官にとってリスクを伴う行為のはずで、無茶な理屈をこしらえてまで杉田側に忖度したとしか思えない地裁判決を覆した大阪高裁に敬意を表したいです。

 国会議員の立場にありながら、研究者に対して研究費の不正使用を根拠なく匂わせる発言が明確に名誉毀損と認定されたことの意義はとても大きいと考えます。杉田議員には真摯な反省をして今後このような言動を行わないよう求めたいです。そしてこの判決は、研究についてだけでなく、社会活動を行う団体に対して根拠なく「公金使用に問題がある」という言いがかりがなされていることに対しても歯止めになると考えています。

 なお、杉田議員はこの点について、大阪大学に情報公開を求めよう等とツイッター上で自分のフォロワーに扇動し、杉田議員側と思われる人々が大学にクレームを入れたり情報公開請求したりするなどの行動をとりました。このため部局長はじめ大阪大学の各担当者には、本来全く不要な煩雑な業務が発生し、ただでさえ多忙な事務職員を煩わせました。この結果をご報告しお礼を申しあげたいです。

*ネット上の攻撃の意味が理解されていない

 高裁判決には、杉田議員の行った誹謗中傷について、「一般読者の普通の注意や読み方を前提とすると(名誉毀損にあたらない)」という言い方が頻出しています。判決には昭和39年の最高裁判決などが先行する判例として挙げられていますが、今回原告らがさらされたのはかつてとは異なるネット上での誹謗中傷であるという大きな違いが全く顧慮されていません。杉田議員は厖大な数(当時でも10万人以上)のフォロワーを持ち、彼女の発言はまたたくまにそれらの人々に伝播しさらにそれらフォロワーが牟田にさらに酷い誹謗を重ねたり自分のフォロワーに拡散したりしていったという面はほぼ無視されています。原告側は、ネット言論を専門とする研究者による意見書を提出し、データを基に丁寧に説明したのですが、判決は一顧だにしていません。

 ターゲットとなった牟田はそれらの攻撃によってはなはだ疲弊しましたが、そうしたネット上の攻撃(ネットリンチ)では死に追いやられる人すら現実に出ています。しかも上にも触れたように、杉田議員は意図的にそうした攻撃を扇動しているのに、高裁判決ではそうした悪質性、被害の重篤さがまったく考慮されていないのは、実に遺憾です。

*フェミニズム研究/女性研究者だからこその攻撃

 ネットカルチャーは、フェミニズムや女性を叩きバッシングすることに実に親和的です。元々杉田議員は政治姿勢として、「女は嘘をつく」「男女平等は妄言」などと主張し続けていましたが、なんと判決は、元々そういう姿勢を明らかにしていたから私たちへの誹謗もその路線上であって意見論評にすぎないと判断しています。つまり判決の言う「一般読者」は、彼女の「読者」であって、それらの人々は彼女の主張をよく分かっているのだからいまさらに私たちを貶めたことにはならないという論理で、私たちの被害は無いものとしているのです。これでは差別的言辞を常日頃から弄してもてはやされていれば誰に何を言っても咎められることはないと言っているのと同じではないでしょうか。まったく納得できる判断ではありません。

*研究者としての評価がなされていない/研究の意味が理解されていない

 杉田議員は私たち原告の研究内容について、「とんでもない研究」と評し、研究に全く価値が無いような発言を繰り返しました。しかしこれらについて判決は、研究内容への批判に過ぎず人身攻撃に及ぶものではないから不法行為とは言えない、ということを繰り返しています。私たちが研究成果の一環として公開した動画『慰安婦問題は#MeTooだ!性暴力NO!で手をつなごう』について杉田議員が「ねつ造」と述べたことも、慰安婦には強制性は無かった・慰安婦問題はねつ造だ、とする慰安婦問題に関する彼女の持論を述べただけで私たちの研究をねつ造と言ったわけではないとしています。

 しかし私たち原告は研究者です。研究内容をその学問的意味を理解することすらなく「とんでもない研究」と言い放つことは、原告らの研究者生命にかかわる攻撃です。ましてや、研究内容がねつ造であるかのように触れ回ることの悪質さがまったく理解されていないことは非常に無念です。 

 この点は岡野論文について杉田議員が「結論ありき」で研究の名に値しないかのように誹謗した点についても同様で、判決は、杉田議員と岡野論文は慰安婦制度が性奴隷制かどうかについて意見を異にしているだけで研究内容を貶めたことにはならないと切り捨てました。しかし原告らは結論の違いを問題にしているのではなく、結論に至るプロセスを論じている論文内容を理解もせずに「結論ありき」と言い放ったことが研究者への侮辱であると主張したのですがそれが全く理解されていないのはまことに残念と言わざるを得ません。

*上告をしない理由

 以上のように大阪高裁判決は、重要な点で杉田議員の不法行為を認めた非常に意義のある判決であると同時に、少なからぬ点で私たちの訴えを理解することなく切り捨てた問題含みの残念な判決です。

 そこでもちろん私たち原告は、正しい判決を求めて最高裁に上告する可能性も検討しましたが、そもそも最高裁の審理対象は憲法判断などに限定されていますから、私たちの主張の内容が再審理されることは期待できません。ですから私たちは、それよりもむしろ研究者として広く社会に向けた言論によって高裁判決の不十分さやおかしさを発信していくことに努力するほうがより効果的ではないかと判断した次第です。

 皆様におかれましては、今後とも、私たちの発信や著作物にご注目とご支援をお願いする次第です。

 なお、最後になりましたが、本裁判の提訴以前から熱意をもってご尽力いただいた弁護団の上瀧浩子・大杉光子・吉田容子弁護士に心からのお礼を申しあげます。加えて、惜しみないサポートを原告らにしてくれたフェミ科研費裁判を支援する会スタッフの皆さんにも厚くお礼申し上げます。

以上