原告提訴声明文

2019年2月12日

杉田水脈衆院議員提訴にあたっての声明

JSPS科研費基盤(B)「ジェンダー平等社会の実現に資する研究と運動の架橋とネットワーキング」JP26283013平成26-29年度研究グループ

牟田和恵(大阪大学)・岡野八代(同志社大学)      
伊田久美子(大阪府立大学)・古久保さくら(大阪市立大学)

本日、私たちは衆議院議員杉田水脈氏に対し、名誉毀損等による不法行為についての損害賠償等請求を京都地方裁判所に提訴しました。
杉田議員は、私たちが行った研究に対し、無理解と偏見に基づく誹謗中傷をインターネットテレビ、ツイッター、雑誌等種々のメディアを通じて繰り返し、私たちの名誉を大きく傷つけました。その詳細は訴状および今後法廷に提出する書面で明らかにしていきますが、ここでは簡単に3点に触れます。

第一に、杉田議員は、「慰安婦」問題を扱った私たちの研究について「ねつ造」と述べ発信しました。「強制連行」に関する一部の証言に問題があったとしても、それは「慰安婦」の存在、そして日本軍慰安所の強制性を否定するものでは全くありませんし、かつて日本軍が行った戦時性暴力は多くの研究者が調査によって明らかにしています。また、1993年の河野官房長官談話ほか、「慰安婦」問題について政府が謝罪し反省を述べた文書は現在も日本政府の公式見解です。杉田議員はこの事実を無視して、「慰安婦」問題はねつ造とし、この問題について検討考察を行う研究まで貶めたのです。研究者にとって研究がねつ造とされるのは、研究者生命を危うくする、きわめて重大な名誉毀損です。

第二に、杉田議員はフェミニズムへの無理解から、私たちの研究を貶める発言を繰り返しています。私たちの研究では、ジェンダー平等の実現のためにはさまざまな社会運動や活動と架橋していくことが重要であることを、理論的にも実践知としても明らかにしてきました。それなのに杉田議員は「あんなのはフェミニズムではない」「活動であって研究ではない」などと、自らの偏った理解や無理解によって研究を貶めました。また、女性の身体や性は第二波フェミニズム以降の重要なテーマであり、国際連合の条約や日本の法律にも盛り込まれています。しかし杉田議員は、それを扱ったイベントについて「放送禁止用語を連発」などと浅薄な形容を繰り返して嘲笑し、研究に価値がないかのような印象操作を繰り返しました。これは、私たちのみならずフェミニズムやジェンダー研究全体に対する抑圧であり、とりわけ国会議員で男女平等を推進していくべき立場にある杉田氏のこのような言動は許されるものではありません。

第三に、杉田議員は、私たちが科学研究費助成期間終了後に研究成果を発表したことについて、助成期間を過ぎて科研費を使用しずさんな経費の使い方をしているかのように複数のメディアで発言しました。しかし助成期間が終わった後に科研費を支出することはあり得ませんし、実際、支出していませんから、経費のずさんな使用などと誹謗されるいわれはありません。また助成期間後に当該研究の成果を発表することは、科学研究費制度にも組み込まれた当然の学問的営為です。研究費や公費の使用に厳正さが強く求められる現在、こうした事実無根の「不正」疑惑をかぶせられることは、研究者として大きな憤りを禁じえません。
以上のような言動は、一般人においても許されるものではありませんが、国民の負託を受け憲法を遵守する責任を負っている、そして文科省はじめ行政に影響力を有している国会議員が行うとは言語道断です。
さらに杉田議員は、私たちに対して「反日」というレッテルを多用し、さらには「国益を損ねる」研究に科研費を助成することは問題であると繰り返しています。自らの偏った価値観から「国益」とは何かを決め付けること自体問題ですが、その上にそれを理由に学問研究に干渉・介入することは、学問の自由を保障する民主主義国家において許されません。私たち科研グループへの杉田議員の発言は、私たちに対するのみならず、学問の自由・学術研究の発展に対する攻撃であり、私たちへの誹謗中傷を放置することは将来にわたる学問の自由への介入の理由づけに利用されることが十分予想され、それを阻止するために今般の提訴に至りました。
学問研究への権力の介入を許さない人々、女性差別に反対する人々、「慰安婦」問題について歴史のねつ造を許さず責任ある解決を求める人々はじめ、多くの皆様に本裁判への注目と支援をよろしくお願いします。